財務ノウハウ(5)

(1)リスケジュールのタイミングをどう判断するか

リスケジュールにおいて重要なのは、そのタイミングです。
このタイミングは、早すぎても遅すぎてもいけません。
タイミングが早ければ、リスケジュールをしなくてもよかったのにリスケジュールすることになってしまったり、タイミングが遅ければ、遅れる間に返済がどんどん進んでしまうので、資金が枯渇してしまうことになったりします。

まず、リスケジュールを行うべきと判断とは
銀行から新たな融資が受けられるかどうかを基準にします。

 

例えば、事業におけるキャッシュフローが年間0、毎月の返済金額が300万円の企業があるとします。
その企業は、年間3,600万円の返済を行うことになります。
キャッシュフローが年間0で、返済額が年間3,600万円あるため、その間に新たな融資が受けられなければ現金預金は△3,600万円、減少してしまうことになります。だから、その企業は年間、3,600万円の融資を受けられるようにしなければならないのです。
しかし、銀行から融資が全く受けられなかったり、受けられたとしても年間返済額3,600万円に到底、満たない金額の融資しか受けられなかったりすると、現金預金は枯渇してしまうことになります。

どこの銀行からも融資が受けられなくなったり、もしくは年間に消えていく現金預金を補う金額に到底、満たない金額しか融資が受けられなさそうであったりすれば、それがリスケジュールを行うタイミングであります。

注意!
しかし、どこの銀行からも融資が受けられない、ということを気づくことが遅れてしまうと、リスケジュールのタイミングが遅れてしまうことになります。

リスケジュールのタイミングが遅い企業の例

例えば、現在23年3月、現金預金1,000万円、毎月の事業キャッシュフロー0、月間返済額300万円とします。 今、どこの銀行からも融資が受けられないことが分かったら、リスケジュールするタイミングは、今、ということになります。


しかし、今、融資を申し込まず、そこから3ヶ月×300万円=900万円の返済を進めて、23年6月に残り現金預金100万円になったところでやっと銀行に融資を申込み、審査が通らず、どこの銀行からも融資が受けられないということが分かったとします。


その場合、リスケジュールを行っても残り現金預金が100万円しかありません。

融資が受けられないことに、気づくタイミングが遅いのです。

23年3月時点、残り現金預金が1,000万円の時点でどこの銀行からも融資が受けられないことに気づいて、すぐにリスケジュールを行えば、残り現金預金1,000万円がある状態になり、多少は余裕を持って、経営を行うことができます。

ここから考えると、各銀行のあなたの会社への融資スタンスを常に把握しておき、リスケジュールのタイミングが遅くなりすぎないようにすることが重要であることが、分かります。ここから考えると、各銀行のあなたの会社への融資スタンスを常に把握しておき、リスケジュールのタイミングが遅くなりすぎないようにすることが重要であることが、分かります。

次のようなケースではどうでしょう。

リスケジュールのタイミングが遅い企業の例年間の事業キャッシュフローは0、年間3,600万円の返済があり、一方で現在は、ある銀行で1,500万円は融資が受けられそう(ただその銀行から今後1年間は追加融資は受けられなさそう)であるが、他の銀行からは融資が受けられる見込みない。


この場合、年間で消えてしまう現金預金3,600万円に対して、年間で受けられる融資が1,500万円しかなく、リスケジュールを行いますが、その1,500万円の融資は、すぐに受けておくべきです。

  • ■融資を受けられない他の銀行ではすぐにリスケジュールを行い、一方で1,500万円の融資を受けられる銀行においては融資を受けておき、2,3ヶ月返済したら、その銀行でもリスケジュールを行うのです。
  • ■1,500万円の融資を受けられる銀行には、実際に融資金が入金となるまでは、もちろん他行でリスケジュールを進めているという話をしてはなりません。
  • ■またその1,500万円の融資が信用保証協会保証付融資だったら、他行での保証付融資のリスケジュールを同時に進めてしまうと、その1,500万円の融資の保証協会保証はおりないことになってしまうので、それも間違えてはなりません。


このように、各銀行の融資スタンスをはかり、リスケジュールのタイミングが遅くならないことにすることが重要です。

■次に、リスケジュールのタイミングが早すぎないようにする、とはどういうことかについて述べます。

特に、金融円滑化法によりリスケジュールという手段が一般的なものになってから、リスケジュールを行わなくてもよいのにリスケジュールを行っている企業を、多く見受けます。

第一に、銀行から普通に融資が受けられるのに、その融資を受けることを選択せず、リスケジュールしてしまう企業、です。

例えば、年間の事業キャッシュフロー0、年間返済額3,600万円の企業で、年間3,600万円の融資を受けられる企業であるにもかかわらず、これ以上融資を増やしたくないという理由で、リスケジュールを行ってしまう企業があります。


この場合、リスケジュールを行ってはなりません。
リスケジュールは、銀行から融資が受けられず、返済負担が大きくなった場合にとる「次の手段」です。


なぜなら、リスケジュールを行うと、やはり銀行は、リスケジュールを行った企業に対しては厳しい見方をするようになるからです。 その銀行は、その企業に対し、リスケジュール期間中は融資を出さないし、また返済を再開し、正常な状態に回復するのも時間がかかります。

 

(2)工務店におけるキャッシュフロー経営とは

"勘定合って銭足らず"よく耳にする言葉ですよね。

帳簿上では利益が出ているのに、なぜか金が無い状態を言い表しています。ただ、やっかいなのが建設業の場合、"勘定も合っていなし、金もない"という会社が結構多いんです。


こんな会社でも、最悪、キャッシュフローだけ意識して経営していたなら、何とか持ちこたえることができるかもしれませんが。

一般的に「キャッシュフロー経営」とは、キャッシュフロー計算書により、現金の流れを重視して、現預金残高を大きくしていく経営のことです。

このキャッシュフロー計算書は上場企業だけに作成が義務づけられていて、
 1.営業活動によるキャッシュフロー
 2.投資活動によるキャッシュフロー
 3.財務活動によるキャッシュフロー
が判るようになっています。
重要なのは、1の営業 活動によるキャッシュフローを意識して経営を行うことです。

いま中小工務店がやらなければならないことは
「資金繰り表」の作成です。
少なくても3~6ヶ月先の資金計画ぐらいは把握できるようにしましょう。私が担当している工務店さんには、資金繰り表でも「日繰り表」を毎日付けて貰うようにしています。

 

いつ、どこに、いくら支払うか、予定を入れ、日々実際の入出金に合わせてメンテナンスをします。

ここで重要なのが、把握できている範囲で出来るだけ先の予定を入れる事が鍵だということです。

受注工事が増えたら、都度メンテナンスをして、おおよその金額と支払い時期がわかるようにしておきます。

これによって、土壇場で慌てることなく前もって資金繰りが考えられます。

この日繰り表は、出来ることなら社長さん自らが作成して欲しいものです。
中小工務店の場合、結局、資金調達は社長さんの仕事でしょうから、頭の中に"日繰り"をたたき込んでおきましょう。

 

(3)元請け、下請け、どっちが良いの?

"ゼネコンを目指した"、一、専門工事業者がありました。
専門工事業者ですから、とび・土工、鉄筋、型枠・・・と、数多くの業種があるわけですが、その一職種に特化した下請会社が、元請会社である、ゼネコンを目指したというわけです。

この会社の社長が言うには、ゼネコンの元社員で、現場で施工管理をやっていた技術者が入社したことで、建築一式工事を請けたそうです。詳しくは言えませんが、その現場で契約上のトラブルが発生し、請負金を巡って訴訟中となっているらしく、当然、かなりの金額が滞っているので、経営的に窮地に立たされています。

  • ●出来るからやるのは「建設者」の発想であり、発注者との合意を、法律に則って履行する「契約者」としては如何なものでしょう。やはり、一度原点に戻って事業の立て直しを考えるべきだと話しました。
  • ●繰り返しになりますが、ゼネコンになるということは、発注者と約束した建物を、約束通りの「価格」で「安全」に「工期」内で造らなければならないということです。 それではじめて約束した「金額」を受け取れる権利を主張できるのです。
    ただし、例え、約束した「金額」を受け取れない場合でも、下請け業者には、請負代金の支払いなど、約束を履行しなければなりません。
  • ●私は下請け業者が、元請けを目指すのは悪いことだとは思いません。 実際、下請け業者でも三次下請けであれば、二次を目指し、二次は一次を目指すべきだと思っています。しかし、そうなるには、そうなる資質を備えていかなければなりません。何事も一足飛びにはできないのです。

財務を立て直すこと、それから地に足のついた「事業再生計画」の策定を第一にするべきです!

 

(4)建設業の再生方法

■建設業は、1件1件の工事でどれだけ利益を出していけるか、がその企業のトータルの利益を決める業種であります。

粗利管理の重要性
  • ◎原価積算の正確性、外注や材料費の相見積りによる原価の抑制、十分な利益を確保した見積り提示、が重要。
  • ◎また、それとともに、施主や元請け先からのサービス工事、つまり追加工事をサービスで引き受けないことも、利益確保の上で重要になってきます。
  • ◎工事ごとの粗利管理をしっかり行わないと、1件1件の工事において利益がほとんど確保できなかったり、もしくは赤字工事になったりして、その企業は苦しい状況に追い込まれてしまいます。
予算実績管理
  • ◎必ず予算と実績の比較を行っていますでしょうか。
  • ◎実績でどれだけ原価がかかったかを見ないと、予算の設定が適正であったのか検証することができず、今後の粗利管理に生かしていくことができません。
  • ◎予算実績管理を行わないと、サービス工事のこわさが分かりません。
    サービス工事を行うと、とたんに利益は少なくなります。粗利管理を行わないと、これが分かりません。

■例を見てください。1年で工事が5件ある企業だとしますと

工事名 売上 原価 粗利益 (単位:百万円)
工事A
工事B
工事C
工事D
工事E
合計
150
70
90
130
80
520
120
60
70
120
60
430
30
10
20
10
20
90
この企業の共通経費が80百万円だとしますと、この企業の利益は90-80=10百万円、となります。 1件1件の工事で粗利益を稼いで、共通経費をまかなうイメージはこのような感じです。

ところが、工事Aにおいてサービス工事を請けてしまい、その分の原価が20百万円かかったとしましょう。


そうすると、工事Aの粗利益は10百万円となり、この企業の1年間の利益は△10百万円となってしまいます。

サービス工事を安易に引き受けず、20百万円をせめて追加請求していれば、赤字の転落はなかったです。 このように、サービス工事は、その企業の業績を一気に悪化させます。簡単に請けてしまってはいけません。

建設業の再生のためには、一にも二にも、工事ごとの粗利益の改善です。

 

(5)建設業における公共事業と民間事業の戦略

■同業他社と競争し、高額商品である住宅(もしくは大規模修繕リフォーム)のご契約をいただくために、第一に検討しなければならないポイントを申し上げます。

  • 1.自社の会社としての『強み・弱み』は何か?を考え、自社の強みをどう生かすことができるか?
  • 2.誰(どんなターゲット層)に、何(どんな住宅・リフォーム商品)を、どのように販売することができるのか?

必ず、1が最初でなければいけません。
なぜならば、自社の状況を検討し、戦略を練った上で、そのターゲットに向けた情報を発信しなければ、集客も契約もできないからです。

例えば、ターゲットとすべきは、30代や団塊世代を狙うべきだ、自然素材を売りにした住宅を販売すべきだ、オール電化や太陽光発電などエコ商品をターゲットにしたら良い!と、コンサルタント会社からの提案を受けて2からスタートすると...
オール電化や太陽光発電等世間で注目されているから、というだけでは、同じものを取り扱っている会社はたくさんありますので、お客様からお問合せをいただいたとしても、ご契約できるかどうかはわかりません。価格競争にさらされる危険性が高いです。

営業的な入口は、あなたの会社の特徴(=強み)は、ハッキリとした他社との差別化をどう打ち出せるのか?の検討がなければ、成果を出し続けることはできません。

■新規事業へのシフトをお考えになる場合には、現在の事業の財務面も併せて検討することが重要です。

まずは、現状の財務の問題点・改善点を検討した上で、現在の資金繰り表を作成し、最低でも6か月、基本的には12ヵ月先までの収支を確認します。

なぜならば、例え、今すぐにご契約をいただいても、着工は早くて3か月先、基礎工事からお引渡まで、4ヵ月の工期として、支払の多くは上棟後発生し、それからお引渡後2ヶ月程度まで発生し続けますので、契約前にその工事の支払が全て終了するまで原価・工程管理の中で利益額(率)を把握し続けることが大きなポイントとなります。

なぜならば、お客様との基本的な金額の同意は契約時に決まりますが、利益は全ての支払いが終了した後に確定するのですから。

自社でお建ていただくお客様を集客するための広告宣伝費(顧客獲得単価)契約までの追客コストを把握していなければ、利益確保は覚束ないのです。

■すべてにおいて毎月の予算実績管理を徹底していく必要があります。
つまり、あなたの会社を発展させるには、『財務』と『売上向上』が全て一体となった計画=戦略がなければ、成功できないとういうことです。どちらか一方だけではいけません。

 

(6)会計データとにらめっこ

私の会社は7月決算で、平成25年7月期の売上・利益がどうやって成り立ってるかの分析はもちろん、部門別の会計を行い、データを分析しておりました。
そして、ずっと会計データとにらめっこしていました。

そのようにすると、利益をもっと大きくするにはどうすればよいか、見えてくるものです。
利益を大きくするための対策が浮かんでくるのです。

利益を大きくするためにもっともやらなければならないことは、経営者自身が会計データとにらめっこすることだと思います。

会計データのいろいろなところを見まくることにより、業績をアップさせるためのいろいろな対策が浮かんできます。
対策が浮かんできたら、あとはそれを実行するだけです。

 

資金繰りを良くする、銀行から融資を受けやすくするために、もっともとるべき対策は
業績アップです!

 

経理を行わない、いわゆるどんぶり勘定の企業は、自然と業績が悪くなります。経営者が会計データを見ることができないで、どうやって業績アップの対策が立てられましょうか。

業績アップのために、毎月、試算表を翌月の中旬ぐらいまでに作り、経営者が会計データとにらめっこして、対策を練るべきです。

 

(7)赤字補填の借入の見分け方

資金調達には、大きく分けて2種類の性質があります。

・売上増加にともなう運転資金、生産力増強のための設備資金など、前向きな資金調達
・赤字で資金が減少していくにあたって、その補填のための後向きな資金調達

見分ける方法があります。


売上が増加していないことを前提として、決算期ごとに、借入総額が増えていっているかそうでないかを見ることによって、見分けることができます。

資金繰りが苦しくなったのは銀行のせいではないですよね。赤字を黒字にする対策を怠り続けた経営者の問題ですよね。

原因を他人(銀行)のせいにすると、経営者になんの反省も生まれず、その会社は改善、いや改革していくことはできません。 早めに気づいてください。

 

(8)事業融資は「住宅ローン」ではない

中小企業経営者と話をしていると、銀行からの事業融資を、住宅ローンと同じ感覚でとらえている方が多いことに気がつきます。
何かと言いますと。
企業で借りる事業融資は、完済、を目指すべきではない、ということです。一方で、個人で借りる住宅ローンは、完済を目指してください。

多くの中小企業経営者は、銀行から融資を受けることを「悪」と考えています。
そういう経営者は、「無借金経営」を目指そうとします。
無理なのに無借金経営を目指すと、どうしてもギリギリの、現金預金保有量で資金をまわそうとします。


以下のAとB、どちらの会社が、資金繰りがまわっていて安全な企業、と言えるでしょうか。

A.現金預金 100万円 借入金 5,100万円
B.現金預金3,100万円 借入金 8,100万円

当然、Bの会社の方が、安全な企業、ということになります。

無借金経営を目指すと、現金預金が尽きる寸前まで、借入をせずに資金をまわそうとします。

現金預金がギリギリとなります。

しかし、融資は経営者が望めば、出てくるものではありません。
  審査が通らなければ、どうでしょう。もうAの会社は、アウトです。

  • ★事業を営むには、当然、運転資金が発生します。
  • ★設備資金も発生します。
  • ★売上が大きくなればなるほど、売掛金や在庫が多く発生します。それで資金が足りなくなり、銀行から融資を受けて資金を確保します。
  • ★このように、銀行から事業資金を受けているという状態は、企業が事業活動を行っていくためには「当たり前の状態」なのです。

無借金経営は、キャッシュフローをいかに大きくするか、という観点からしか、目指すことはできません。
無借金にしたいのなら、まずはいかに、利益を大きくするか、そちらを考えるべきです。それが結果として、無借金経営に近づいていくことになります。

キャッシュフローの簡易計算式は次のとおりです。
キャッシュフロー=利益+減価償却費
キャッシュフロー計算書を作れば正確なキャッシュフローが計算できますが、それが難しいのであれば決算書内の損益計算書を見て、上記計算式で計算してみるとよいでしょう。

キャッシュフローが返済額を上回ると、現金預金量は減らさずに、借入残高を減らしていくことができます。そうすると、無借金経営、に近づいてきます。
一方で、キャッシュフローが返済額を下回ると、返済が進むにつれ、現金預金量が減っていくことになります。


そうなった場合、新たな借入を起こせばよいのです。
企業は、銀行から融資を受けている状態が「当たり前の状態」なのです。

 

(9)代表者の住宅ローンを返済猶予する場合の事業融資への影響

<質問>

代表者個人の住宅ローン(住宅金融支援機構(旧・住宅金融公庫)より借入中)の返済猶予を申入れして、可能となった場合に、その後、代表者の個人保証が必須の、信用保証協会への法人借入れに影響は出るのでしょうか?
現在資金繰りが厳しいため、返済猶予法が施行されている間に、住宅ローンの返済猶予を申請し、代表者の給与を運転資金に充てたいと考えているのですが信用保証協会の借入れに影響するのであれば、無理なのではと思案中です。

<回答>

信用保証協会保証付融資の審査は、信用保証協会と、融資を出す銀行が行います。
その保証協会と、銀行に、代表者の住宅ローン返済猶予の情報が分かると、保証協会の保証審査、銀行の融資審査に著しく不利になります。
住宅金融支援機構の住宅ローンが返済猶予されている情報は保証協会に伝わることはありませんが、問題は銀行です。住宅金融支援機構の住宅ローンを返済している銀行と、保証付融資を申込む銀行が別々であれば、住宅ローンを返済猶予している情報が銀行に分かることはないでしょう。

 

(10)決算書のポイントは3つ

銀行が企業に融資を出すかどうか審査をする際に、最も重要なのは、決算書です。

決算書が、審査のウェートの8割を占めます。決算書の重要性を今一度、ご認識ください。 では決算書で、どこが重点的に見られるか。それを知っておけば、銀行から融資を出しやすい決算書はどのような決算書か、分かるようになります。


貸借対照表で最も重要なのは
  • ◎純資産がどれだけあるか
    純資産とは、企業の持つ資産から、負債を引いたものです。この数値が高い企業は、財務体質良好な企業と言えます。
  • ◎純資産の絶対額と、そして純資産を総資産で割った比率「自己資本比率」がポイントとなります。これらの数値が高い企業は、財務体質良好な企業として、融資審査は通りやすくなります。
  • ◎純資産がマイナスの企業は、それだけで融資を受けられる可能性が限りなく低いということになります。
損益計算書で重要なのは
  • ◎営業利益と経常利益がどれだけあるか
    営業利益は、事業でどれだけ稼ぐ力があるかをあらわします。
    経常利益は、コンスタントにどれだけ稼ぐ力があるかを表します。
  • ◎一方、当期純利益は、土地を売却して損失が出た場合の「固定資産売却損」での特別損失など、その期だけの特別な要因が影響します。そのため、営業利益、経常利益ほど重要視されるわけではありません。
  • ◎営業利益・経常利益がプラスであることは、融資審査を通しやすくするためには絶対、なのです。

そして決算書の中で最重要なポイントは

 貸借対照表・・・純資産
 損益計算書・・・営業利益・経常利益


いくら、融資を受けやすくするためのテクニックを使おうとしても、これらの数値を良くすることに勝ることはありません。 これらの数値を良くするには、毎月試算表を作って経営管理をし、その結果良い決算になるように経営していくことが求められます。経営者の努力が重要なのです。

 

(11)汚れた貸借対照表

貸借対照表で最も重要視されるのが、純資産合計です。

純資産=資産-負債ですが、純資産がマイナスということは、資産より負債の方が大きい、ということです。
これが債務超過です。
しかし、純資産がプラスで、見た目は債務超過ではなくても、実質債務超過と見られることもあります。


純資産=資産-負債ですが、資産に計上されているものが資産価値がなければ、その分、資産は差し引きして見られます。

そのため、貸借対照表の資産の部において、いかに不良資産を出さないか、融資審査を大きく左右します。


債務超過かどうかは、融資審査においては天と地ほどの大きな差です。

影響は大きいです。ではどうしたらよいかというと、資産の部において、不良資産として見られるものを少なくするしかありません。
例で言えば、経営者に対しての貸付金15百万円を経営者が会社に返済して貸付金を0にすることができればいいです。

しかし、それができれば苦労しません、実際はほとんどの企業で、無理でしょう。

対策


その場合、生命保険を使って貸付金を消す方法があります。 この方法を使って貸付金を保険積立金に振り替えてしまえば、不良資産として見なされる資産を少なくして、銀行から良い評価を受けるようになることが期待できます。

今回は貸付金が不良資産の場合を例にしましたが、仮払金、未収入金など他の資産科目でも、返ってくる見込みのない資産として不良資産として見なされるものは消した方がよいです。

経営者向けの貸付金を例にしましたが、関係会社向けや、従業員向けなどで、返ってくる見込みのない資産でも、同じことが言えます。
これら不良資産として見られるものも、保険積立金に振り替える方法などを活用して、消していくとよいでしょう。

 

(12)将来期待できる商品や技術

銀行員が、よくうのみにするのが、「将来期待できる商品や技術」です。
銀行員は、その分野の専門家ではありません。あらゆる業種と融資取引をしており、ある特定の分野で専門的な知識がある、というわけではないのです。
そのため、この商品や技術は、将来このように広がっていく、というような事業計画を、もっともらしく書けば、銀行員は「すごそう!」とうのみにします。

そのため、いかに、斬新な商品や技術を、それが将来どれぐらいの売上増加につながるか、銀行にアピールするかは、銀行から融資を引き出すための有効な手段ということになります。
それで通常は融資が出ない会社でも、融資が出てしまうことは多いのです。

しかし!

事業が赤字でも、将来性が期待できる商品や技術をアピールした事業計画を見てもらって出た融資は、ほとんどの場合、赤字の補てんに消えてしまいます。
そうなると、借入金はふくらんでしまう一方。
残ったのは莫大な借入金と、赤字体質のままの事業、ということになります。

あなたの会社は、このようなことになっていないか、見直してみてください。

 

(13)余計なことにお金を使わないで!

資金によほど余裕のある企業ならまだしも、そうでないのであれば、余計なことにお金を使えないはずです。資金繰りが厳しいのは、本業とは関係のない、余計なことにお金を流出させてしまっていることがひとつの要因であるケースは多いです。

貸借対照表を見れば、その会社はどのようなことにお金を流出させているか、分かります。

・知人の会社や、個人から頼まれてお金を貸すこと。
 →知人の会社や個人への貸付金

・儲け話が舞い込んできて投資をしてしまったこと。
 →その事業や事業会社への出資金や有価証券、貸付金

・事業の見通しが立っていない新事業のために別会社を作りそこにお金をつぎこむこと。
 →別会社への出資金や貸付金

・社長個人での、遊びや贅沢、投資話のために社長にお金を出すこと。
 →社長個人への貸付金

・必要もない不動産を、ただ不動産を所有したいという所有欲のためだけで買うこと。
 →過大な有形固定資産

負債の部を見ると、借入金勘定があります。

貸付金(知人の会社)25百万円
貸付金(赤字の別会社)30百万円
出資金(赤字の別会社)20百万円

借入金が200百万円。としますと、借入金200百万円のうち、75百万円が、余計なことに実質的に使われていると見ることができます。 このような余計なことにお金を使わなければ、この会社の借入金は125百万円ですんでいるはずです。

 

(14)銀行はお金をあげるのではない

  • ・赤字の会社に、銀行は融資をしません。私の会社は、あくまで正攻法で、中小企業の資金繰りが円滑にまわるように、取り組んでいます。赤字の会社には、どうやって資金繰りがまわるようにするか、あらゆる手を考えて実行していきます。
  • ・資金調達第一、ではありません。裏技みたいなものはありません。
  • ・裏技・テクニックを追い求めても、それがたまたま、一時的には功を奏すかもしれませんが、効果は短期間です。裏技があったとして、融資を受けられても、業績が悪いままであれば融資を受け続けるのにも限りはあります。

しかし


多くの経営者は、その正攻法を実践し、資金繰りがまわるようになっています。

正攻法と言っても、資金繰り困窮時で資金繰りをまわす方法なので、経営者には聞いたことがない方法を伝えています。ただ、会社が生き残っていくためには、こんな方法やりたくない、なんて言っていられないでしょう。

経営者としては、

 ○資金繰りをまわすためにはどうすればよいか。を考えていくべきであって、
 ×資金調達をするためにはどうすればよいか。

を第一に考えてはいけないのです。資金調達のことを全く考えないわけではなく、資金繰りをまわすために資金調達もひとつの方法として考えるべきです。

 

(15)取引銀行を絞る?

・連日、多くの中小企業経営者様からご相談をいただきますが、その中で、取引銀行を集約、もしくは1行に絞りたい、という話もよく聞きます。

例えば、次のようなイメージです。

現状の借入
A銀行 
B銀行 
C銀行 
1億3千万円
5千万円
2千万円
こちらを、次のように集約
A銀行 
B銀行 
1億3千万円
7千万円
(C銀行の融資を借換)

もしくは、次のように集約
A銀行  2億円 (B銀行・C銀行の融資を借換)

しかし、こんなことは、行わないでください。
銀行とのつきあいにおいて、取引銀行は多く持つことは、鉄則です。
そうしないと、次のようなデメリットがあります。

  • ・ある銀行に融資を申し込んで断られた場合、他に取引銀行がなければ別の銀行に融資を申し込むことはできない。
  • ・優良な企業であれば金利引下げを交渉できるが、取引銀行が少ないと金利の競争相手がなく、金利は高止まりとなってしまう。
  • ・このように、取引銀行を集約することは、デメリットばかりでメリットはありません。
そもそも、優良な企業でないかぎり、集約しようとする銀行は、他の銀行の融資の借換を引き受けないことでしょう。

銀行から常に融資を受ける必要がある企業であれば、融資を申込む金融機関の選択肢を自らせばめることは、やってはならないのです。選択肢は広げていくことが、鉄則です。

 

(16)資金があと1か月もつかどうか・・・

①この場合、まず、頭の中を
「通常の資金繰り → 緊急の資金繰り」に切り替えてください。
 
  • ②入りを増やすために資金調達の手段をいろいろとっていくとともに、出を減らすために、優先順位をつけた支払いを行います。

  • ③全て支払いを行うと、資金がショートします。そのため優先順位をつけた支払いを行い、一方では優先順位が後の支払いは支払先に対して待ってもらう交渉を行うことによって、資金のショートを防いでいきます。では、支払いの優先順位はどうやってつけていったらよいのでしょうか。

  • ④そもそも、中小企業が、資金が出ていくのは、大まかに分けて次の5つです。
    1.銀行返済
    2.社会保険・税金
    3.経費
    4.買掛金(仕入・外注)
    5.給与        この中で、支払いの優先順位が高い準に、5→4→3→2→1です。

このように考えると、「緊急の資金繰り」においては、銀行返済や社会保険・税金の支払いは、優先順位は後でもよいのです。 一方で、銀行などへ、支払い条件の緩和の交渉をしていきますが、まずは緊急事態なので、交渉の前に延滞するのです。

 

(17)融資申込みに必須の「資金使途」

融資を申し込むにあたって、銀行から必ず「資金使途」というものを聞かれます。

資金使途には、大きく2つに分かれます。
・設備資金・運転資金

設備資金 設備資金として融資を申し込むにあたっては、必ず、その設備の見積書等、証拠書類が求められます。
そして融資がおりたら、その資金を、支払先へすぐに振り込むことがが求められます。
また、後日、融資によって手に入れた設備を、銀行員が確認に行くこともあります。
運転資金

運転資金は、資金繰りに使われるための資金なので、何に使うか、証拠書類を出すことはできません。
そのため、運転資金として融資を受けたい場合は、その旨を銀行に伝えるだけでよいことになります。将来6ヶ月~1年ぐらいの予定資金繰り表を作り、融資を受けるとどう資金繰りがまわるか、銀行に伝えると、審査においては多少、有利になります。
運転資金といっても、その資金の支払先が決まっている場合もあります。

例えば、建設業によく見られる、工事引当の資金。
工事の、外注費や材料費の支払いが先行し、入金が後になる場合、企業の資金繰りは大きな負担になります。
そのため、工事の発注書や契約書などを証拠書類として、入金予定日に一括返済をすることを約束して、融資を受けます。

例えば、季節ごとに売上の増減が激しい業種を対象とした、季節資金。

例えば衣服製造業で、冬のシーズンに向け夏のうちに衣服を製造し、在庫として蓄えておく、このような場合には夏の時期にいろいろな支払いが先行しますが、その時期に融資を受けて、冬のシーズンに売上を上げて資金を回収し、それを返済にあてます。短期の融資となります。

また、賞与資金や納税資金として、融資を受けることもあります。
これらは全て運転資金の範ちゅうですが、何に使うかが明確なので、証拠資料を出すことができます。工事引当の資金であれば発注書や契約書、季節資金であれば製品や商品の製造・仕入→販売計画や昨年の実績、賞与資金であれば賞与支給予定の計算書、納税資金であれば税理士から出される 納税予定などです。

とすると、単なる運転資金として融資を申し込んだ方が面倒くさくなくてよいのでは、ということになりますが、資金使途をしぼった運転資金として融資を申し込むと、審査が有利になるのです。

なぜなら、資金の使い道がこの場合はっきりしているので、銀行としては 融資を出しやすいのです。設備資金も同じです。

 

(18)粉飾決算がばれるとどうなる?

・銀行は、粉飾決算が分かった場合の対応として、特に取り決めはしていません。
・銀行は次のように対応してきます。上の段階から下の段階にかけて、厳しい対応、ということになります。

【第1段階】新規融資は出さないようにする。
【第2段階】既存の融資の一括返済を求めてくる。
【第3段階】経営者や、場合によっては粉飾決算を作った税理士に、貸倒れた融資の損害賠償を求めてくる。
        (融資が出た時の決算書を作った税理士が損害賠償を請求されます。)
【第4段階】詐欺罪として刑事告訴してくる。

これら、どの段階の対応かは、・粉飾決算の度合い(どれぐらいの利益や資産勘定を上乗せしていたか)粉飾決算で受けた融資の量 などによって、支店と審査部との話し合いの上、銀行は決めます。
ほとんどの場合、第1段階、せめて第2段階までです。第3段階や第4段階はめったにないでしょう。

またこれらリスクよりも、私が重要なリスクと考えることがあります。


それは、通常は融資を受けられないような企業が、粉飾決算で融資を受けることによって、経営者は安心してしまい、経営改善を後回しにすることです。
粉飾決算は、それがばれた時のリスクも高いのですが、それ以上に、粉飾決算が問題の先送りを引き起こし、企業がどうしようもない状態までなってしまうことの方がリスクが高いのです。

 

(19)銀行は粉飾決算をどう見破るか

どうやって見破られたのかというと、

ケース1
  • ・信用保証協会で審査を行ってもらおうと信用保証協会に決算書を提出 したが、他の銀行から提出された決算書が違っていた。
ケース2
・銀行に提出された決算書が、前期と当期で、数字のつながりがなかった。

銀行の支店は、大きく「得意先係」「融資係」「預金係」と分かれます。

得意先係 企業に営業して、融資案件をとってくる「攻め」の立場。
融資係 融資審査にあげられた案件の審査を行い、貸倒れが増えないようにする「守り」の立場です。

  • ◎ほとんどの銀行では、決算書をコンピュータで分析して粉飾の可能性を探るソフトがあり、全ての融資先の決算書を分析しています。
  • ◎他に経営者への質問や実地調査などによって、銀行は、粉飾決算を見破るために、いろいろな取組みを行っています。

粉飾が判明したらその後の融資はいっさいストップ、回収をはかっていく、という流れになります。

 

(20)税金や社会保険を滞納してしまっている

資金繰りがまわらず、法人税・消費税・従業員からの源泉徴収分など、税金を滞納してしまっている企業、社会保険事務所に支払わなければならない社会保険料を滞納してしまっている企業があります。


税金や社会保険料の滞納をそのままにしておくと、税務署や社会保険事務所は、あなたの会社の財産に「差押え」をかけてきます。

  • ①預金口座を差押えようとしてもそこには資金がないので、まずねらわれるのは所有している不動産、です。
  • ②不動産が差押えられても、依然滞納の解消ができない場合、競売手続きを進めてきます。そして不動産を、税務署や社会保険事務所の手で、処分されてしまいます。
  • ③また、不動産とともに税務署や社会保険事務所が差押えをねらってくるのが、売掛金、です。そもそも不動産を所有していない企業は、売掛金が真っ先にねらわれることになります。

売掛金が差押えられると売掛先に対し、差押えの通知がいくことになります。
そうなると、その売掛先は、あなたの会社が倒産間近の企業として、警戒してくることになります。売掛金の差押えをきっかけに取引が解消となれば、あなたの会社は商売を続けられなくなります。

税金や社会保険が滞納してしまったら、何よりもやらなければならないのは税務署や社会保険事務所との交渉です。

 

(21)社員への給料が支払えないかも・・・

まず、銀行返済を止めることによって、給与支払いの資金は捻出できないか、考えてみます。。

多くの企業の場合、これで問題解決する場合は多いです。銀行の返済を止めても商売は続けられますが、給与の支払いを止めると商売は続けられません。その後、銀行とリスケジュール交渉を行っていきます。
それでも給与支払いができない場合、どうするか。

給与支払いの中で、支払いの優先順位をつけます。
経営者の給与は当然、後回しにします。
次に、役員です。役員は経営側の人間であり、このような非常事態の場合にこそ、協力を求めるべきです。
そして、一般社員の給与を最優先に考えます。

それでもまだ足りない場合。
この場合は、社員に説明して、給与の遅配に理解を求めるしかありません。
肝心なのは、次の3つです。

1.経営者がおわびの姿勢を見せる。
給与の遅配という事態が起きると、当然、社員は不安に思うことでしょう。感情的になる人もいるでしょう。
まずは経営者が頭を下げることによって、社員の高ぶった感情を抑えるのです。また、経営者が頭を下げることによって「社長も大変なんだ。」という同情心を社員に抱かせ、今後の給与支払交渉をしやすくします。
2.いつに給与が支払いできるのか、日付を提示する。
社員の不安は、給与が支払われないこともそうですが、いつ支払いされるのか、ということにもあります。 いつ、給与が支払いできるのか。それを提示することによって、社員の不安をある程度抑えることができます。
ただやってはいけないのは、資金繰り計画も立てず、感覚だけでこの日は支払いできるだろうと、支払い日を提示することです。
一度提示した支払い日は、遅らせることはできないものと思ってください。確実に支払いできる日を検討し、給与がいつ支払いできるのかを社員に提示してください。
3.一部でも支払いをすることによって、支払いの姿勢を見せる。
社員の不安は、経営者が給与支払いを遅らせると言っても、経営者は本当に給与の支払いをしようという気があるのか、というところにもあります。
例えば25万円の給与の社員がいる場合、その社員に、給料日に5万円でも支払いをしておくことによって、経営者として、必ず給与は支払う、という姿勢をアピールすることができます。
全社員に全額、給与を支給できないのであれば、いくらなら支給できるのかを考え、一部でも給料日に支払うことにより、社員の不安を抑えることができます。

このように、給与が給料日に支払えない場合、まずは社員の気持ちを考えた上で行動していくことが、この困難を乗り切るために重要になります。

 

(22)新しい決算書が出たら、銀行のスタンスを見る

決算期が過ぎ、新しい決算書ができあがったら、やってみるとよいことがあります。 特に、前回の決算書より、今回の決算書の方が内容が悪い場合。新しい決算書をもとに、銀行に融資を申込んでみて、銀行のスタンスを探ってみてはどうでしょうか。


  • ★信用保証協会保証付融資は1行だけにしか申込めないので、どの銀行に申込んでみるかは状況を見て検討しなければなりませんが、プロパー融資やビジネスローンは、どの銀行にも一斉に申し込んでみることができます。
    実際に借りる借りないは別にして、銀行の融資審査がどうなるかを見ることによって、新しい決算書で、融資が出るかどうか、を探るのです。

新しい決算書で、融資が出る銀行もあれば出ない銀行もある、ということならまだしも、ほとんど全ての銀行で融資が出ない、ということであれば、次の決算書が出るまでの1年間は、銀行からの資金調達がほとんど期待できない、ということです。
  • ★その場合、キャッシュフロー、つまり事業で稼いだ現金で、毎月の融資返済がまかなえるかどうか、がポイントとなります。
  • ★預金が減り破綻が予想されるのであれば、早急に対策をうつ必要があります。 リスケジュール、つまり銀行に交渉して、毎月の返済金額を減額してもらう手が考えられますが、専門家に相談すべきです。

 

(23)売上が月ごとに大きく増減する会社の経費削減のやり方

企業の中には、売上が月ごとに、大きく増減する企業があります。
そのような企業が損益を改善させるポイントは、売上の増減による影響を極力少なくするにはどうするべきか、です。


事業活動にかかる費用には「固定費」と「変動費」とがあります。
固定費とは売上の増減にもかかわらず一定にかかる費用、変動費とは売上の増減に比例して変化する費用のことをいいます。

固定費の割合が高い企業
(社員の給料)
売上が落ちるとき、利益も大きくマイナスとなります。なぜなら、売上の 増減に比例して変化する変動費の割合が小さいため、売上が落ちると固定費の負担が一気にのしかかってくるからです。
変動費の割合が高い企業
(材料費・外注費・仕入原価)
売上が落ちるとき、利益の減少は、固定費の割合が高い企業ほど大きくはありません。なぜなら、売上の増減に比例して変化する変動費の割合が大きいため、売上が落ちると変動費としてかかる費用も落ちるからです。

そこから考えると、月ごとの売上の増減が激しい企業は、売上が落ちても利益への影響を少なくするため、費用の中で変動費の割合を高く、固定費の割合を低くすることが、セオリーとなります。

(例えば)
製造業。受注状況によって、売上が大きい月もあれば小さい月もある企業が大半でしょう。
固定費の代表的なものは社員の給料、変動費の代表的なものは外注費です。

私どもが相談を受ける製造業で、赤字企業の特徴を見ると、売上が大きい月に合わせた人員構成となっている、ということです。 売上が大きい月に、製造部門がスムーズにまわるように、人員を入れています。
ただ、そのような状態では、売上が小さい月には、余剰人員がでてきてしまうことになります。製造部門の社員に、仕事がない人が出てきてしまうのです。 余剰人員、余剰時間が発生するということは、その分、会社の費用負担は大きく、そこで赤字を発生させてしまう、ということになります。

これが、赤字の製造業の企業でよく見られる特徴です。
そのような企業は、売上が小さい月でも、利益が大きく赤字にならないように仕組みを変える必要があります。
そこで、製造部門をスリム化し、売上が小さい月でも余剰人員や余剰時間が発生しないぐらいまで、人員を減らします。

そうすると、売上が大きくなった月は当然、人手が足りなくなります。そこは、外注でカバーします。
こうすると、余剰人員・余剰時間の発生を防ぐことができるため、赤字の発生を抑えることができ、その企業の損益は大きく改善します。

売上が小さい月をベースに人員を構成し、売上が大きい月は外注でカバーする企業は、固定費の割合が小さく、変動費の割合が大きい企業です。
売上の増減による影響を、こうすることによって小さくできます。安定した経営ができます。
今回は製造業を例にあげましたが、どの業種でも、同じことが言えます。

 

(24)固定費の変動費化にひそむ問題と、その改善策

次に、建設業の会社を例に、考えてみます。

現場の正社員が5人いましたが、仕事の多い時と少ない時の差が激しく、人員構成を考えてみたら、正社員5人の体制は仕事の多い時に合わせた人員体制となっていました。
仕事の少ない時も同じように給料を支払わなければなりません。それで、仕事の少ない時は、人件費の負担が重く、赤字となっていたとします。
そこで、現場の正社員5人のうち、職長1人、他1人残し、3人に退職してもらいます。
一方、新たに外注として職人4人を確保し、その4人は仕事に出た日のみに変動費である外注費として支払うことにします。

固定費である正社員給料は削減できるのですが、一方で外注比率は高まりますし、必要な時にタイミングよく来てもらうことも難しくなってきたりします。
また時間単価で言えば、正社員の場合よりも、支払う費用が高くなりがちです。
このように、固定費の変動費化、つまり正社員に辞めてもらい、外注に変えていくと、毎日の職人の手配の負担は大きくなることでしょう。
また経営者としては、次のように考えることもあるでしょう。
「タイミング良く職人の手配ができないと、受注できた仕事をキャンセルしなければならなくなったり、そうするとその受注先からの仕事が今後来なくなってしまうおそれもあるので、無理してでも技術のない高い外注費の職人を連れてこなければならなかったり、それで時には利益が出なくなってしまったり、技術不足から補修などがかさんで赤字になってしまう場合もあるではないか。」 職人を手配し段取りをする職長の負担も大きくなることでしょう。

だからといって、仕事のピークに合わせて、正社員を増やしてしまえば赤字になります。

この例にひそむ問題は、管理体制、にあります。

  • ■仕事の受注見通しはどうか、職人のスケジュールはどうか、ということを、職長、職人、もしくは経営者で、共有しておく必要があります。
  • ■職長、職人、経営者間でGoogleカレンダーなどを使ってスケジュールを共有したり、全くパソコンが使えない人であれば1日1回は連絡をとってスケジュールを確認しておいたりするなど、情報共有手段はいろいろあるはずです。
  • ■仕事が多い時に困るからと、余剰人員を抱えるのではなく、仕事が多い時でもいかに仕事の受入体制を確保できるか、その体制を構築することを考えます。
  • ■ある仕事に慣れない職人でも、職長が仕事の状況をチェックしておくなど、管理体制をしっかり構築することを考えます。

どうしても仕事が多い時に合わせた人員を確保したいというのなら

仕事の少ない時に、余剰の社員を余らせるのではなく、仕事の少ない時には余剰の社員を営業に出させるなど、時間を有効に使わせるべきでしょう。 「ふだんは現場の社員に営業をさせることなんてできないよ。」というのなら、仕事が少ない時に余剰社員が出てしまう人員体制はとるべきではありません。

仕事が少ない時に照準を合わせた、人員体制を心掛けるようにしてください。

 

(25)決算書の貸借対照表は債務超過

しかし、役員借入金が多くあり、それを実質自己資本とみなすと、債務超過でなくなる。
だから、債務超過の状態はほっておいてもよい(と、顧問税士からアドバイスを受けている。)

債務超過、つまり決算書の貸借対照表において、純資産がマイナスの状態であるのは、銀行から融資を受けるにあたって、致命的です。
銀行融資の教科書的な本を読むと、決算書では債務超過であってもその超過額を上回る役員借入金があれば、それを銀行は実質自己資本とみなし、債務超過でない企業として扱ってくれる、ということがよく書いてあります。
しかし、それは机上の空論です。
やはり、決算書を見て債務超過であるのなら、その企業には融資を出しづらいのです。コンピュータが決算書を分析して審査するビジネスローンも、三井住友銀行のクライアントサポートローンという商品以外は、債務超過の企業は対象外なのです。例え債務超過額を上回る役員借入金があったとしても。

  • ■役員が会社に貸し付けている貸付金を「債務免除」する、という方法があります。
    決算で、役員が債務免除して、それを債務免除益として計上します。
    こうして債務超過が解消となれば、決算書の貸借対照表において純資産がプラスとなります。
  • ■また、役員借入金を資本金に組み入れて債務超過を解消することもできますが、この方法についても税金のことを気をつけなければなりません。

はっきり言って、債務超過である企業、そうでない企業、銀行融資の審査において、天と地の差はありますよ。銀行からスムーズに融資を受けたいのなら、そこは、はっきりと意識を持ってください

 

(26)とうとう商工ローンや消費者金融に手をだしてしまった

・銀行から融資が受けられない企業がやってはいけないこと

商工ローンや消費者金融に手をだしてしまうこと

問題は、次の場合です。

1.事業が赤字であり、赤字を補填するため。
この場合、赤字が借入に化けることになります。一時的な赤字であっても黒字ベースに回復するならまだしも、赤字に陥った企業のほとんどは、そうではなく赤字体質がつづくことになります。
そうすると、赤字が続く限り、永遠に借入で補填しなければならないことになります。これでは、いずれ破綻してしまうことになります。それに加えて、金利の負担がどんどんふくらみます。
2.銀行への融資返済の資金を作るため
この場合、よく考えてみてください。銀行の、2~3%の低金利の融資が、商工ローンなどの、10%~20%の高金利の融資に取って代わることになります。
高金利でお金を借りて低金利のものを返す。すごい矛盾ですね。
このように、銀行からお金が借りられない場合、商工ローンや消費者金融などでお金を借りてしのぐというのは、絶対やってはならないことなのです。

それと、もう一つ。高金利のお金を借りるにあたって知っておかなければならないことがあります。

商工ローンや消費者金融は、高い金利をとられる上に、少しでも返済できなくなったらすぐに強硬な手段をとってきます。 商工ローンや消費者金融などでお金を借りてしのぐというのは、絶対やってはならないことなのです。

 

(27)次の決算が大きく赤字となる場合

前期決算は黒字でした。来期決算は、大きな赤字が予想されるとき


今のうちに、借りられるだけ借りておくことです。

前期決算が黒字であったら、今期の今までの試算表では赤字であっても、銀行は前期の黒字を見て、融資審査してくれやすい、ということです。

そして、今期決算が出たら、それを各銀行にもっていって、また融資を受けることはできないか、融資を申込んでみます。
そうすることによって、各銀行が今期決算をふまえて、どういうスタンスでくるのか、を探ることができます。

それで、融資が出なかったら、おそらく今後1年間は、その銀行で融資が出ない、ということです。
そういった場合、1年間は融資を受けられない状態で、今後1年の資金繰りはどうなるのか、経営計画と資金繰り表で、十分、検討します。

そして、1年のうちに資金繰りが破綻することが予想されたのなら、銀行に毎月の返済金額を少なくしてもらう、いわゆるリスケジュールの交渉も、視野に入れなければなりません。
その判断は、遅くなってはいけません。遅くなると、資金が尽きてしまうから、会社立て直しのための資金も残っていません。
多くの会社は、相談にこられるタイミングが遅いです。

 

(28)売掛金を担保にできないか?

売上が一定である場合、売掛金も常に一定(多少の上下はあっても)であるのが通常です。そのため、一定して企業に存在する売掛金は、担保の一つとして考えやすいです。
例えばいつも売掛金が5,000万円ある企業の場合、売掛金の内容を全て精査して、2,500万円を担保評価とする、というように、実務では行われます。

ただ、売掛金といっても、いろいろなタイプの売掛金があります。
そのタイプによって、担保として見やすい売掛金と、そうでない売掛金とに分かれます。

1.継続的な得意先に対するものかどうか
毎月継続的に売上が発生する得意先に対する売掛金は、常に一定して売掛金が存在することになるため、安定した担保として、担保価値を見やすいです。一方、単発で売上が発生した得意先に対する売掛金は、売掛金は一定して存在するということにはならないため、担保として見にくくなります。
2.債権譲渡禁止特約を結んでいるかどうか
取引契約書等を交わし、その中で債権譲渡禁止特約、つまり売掛金は第三者に譲渡しないものとする、という特約が結ばれている得意先に対する売掛金は、担保とすることはできません。そのような特約が結ばれていないか、そもそも得意先と取引契約書をわざわざ交わしていないのであれば、その得意先に対する売掛金は担保として見やすくなります。
3.売掛先の業況はどうか
そもそも、業況が芳しくない得意先に対しての売掛金は、その得意先が倒産して回収できなくなってしまう可能性が高いので、担保として見にくいです。

売掛金を担保とした融資を検討する場合は、その売掛金の担保価値を、以上のように見ていきます。

「売掛金を担保とすると、その売掛先に、売掛金を担保とした事実が知られ、信用不安が起こってしまうのではないか。」とよく質問があります。

売掛金を担保にするためには以下3つのいずれかを行わなければなりません。
1.「通知」売掛先に対し、売掛金を担保にしたことを通知する。
2.「承諾」売掛先から、売掛金を担保にしたことについて承諾をもらう。
3.「登記」売掛金を担保にしたことを、商業登記簿(売掛金を担保にして融資を受けた企業の登記簿)に登記する。

1.2の方法は、当然、売掛先に対し、売掛金を担保とした事実が知られてしまうことになります。
しかし3の方法は、あくまで融資を受けた企業内でのことなので、売掛先に対し、売掛金を担保とした事実が知られてしまうことはなくなります。
そのため、この方法を使えば、売掛先に知られることなく、売掛金を担保にして融資を受けることができます。

そうすると、次のような不安も経営者は感じてしまうことでしょう。
「商業登記簿を銀行や取引先に提出する機会は多く、売掛金を担保にしていることが見られると、銀行や取引先から警戒されないか。」 売掛金を担保にしたことは、商業登記簿の、別紙に記録されます。
そのため、その別紙を提出しなければ、よいことになります。

ただ、実務的な話をしますと、信用保証協会の保証を付けた売掛債権担保融資でなく今まで述べたような?「5,000万円の一定した売掛金総額に対して2,500万円の担保価値を見てその金額を融資する。」という方法ではなく、「1本の売掛金が発生し、それを担保として融資を受け、その売掛金が回収となったらその回収金を返済にあてる。」という方法がとられ、まとめていくらの融資を受けるという形ではないため、使い勝手はよくないかもしれません。

そのため、私たちが、売掛金を担保とした資金調達の相談を受ける場合、ノンバンク、その中でも売掛債権担保融資を専門的に行っているところを、紹介し、多くの金額がスムーズに受けられるように、アドバイスしています。

そういう危機的状況の会社は、リスケジュールで一気に資金の流出を減らし、売掛債権担保融資で一気に資金を確保し、それを会社再生資金として、そこから再生に向けスタートしなければ、数ヵ月後、破綻してしまうことが目に見えてしまいます。
そのあたりの判断は、経営者として難しいところだと思います。
顧問税理士や、われわれのような資金繰り専門コンサルタント会社などに相談するのも一つの手です。

 


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